TOURISM

2022.05.27

夜と朝をつなぐたった一本の花

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あ、花を買おう。そう思うときは突然やってくる。何かいいことがあったとき、気分が優れないとき、誰かを想うとき。なんでもない一本の花でも、そっとそばにあるだけで気持ちや感情に大きな影響を与える。

暗くそっと静まった夜は、昼間の喧騒を抜け、一人物思いにふけたくなる。そんなとき、手元に花があるとどんな気分になるのか。夜にふらっと訪れることのできる花屋があれば…。

静まった夜にリフレッシュする場としての花屋

宮崎市の中心街から少し離れた場所にある宮崎市昭和町。周辺には大きな公園や中高一貫校があり、その背後には住宅地が広がるなど人の生活が感じられる。街中とは違った魅力が漂う土地だ。

そんな昭和町には一風変わった花屋がある。営業は夕方にはじまり夜遅くに終わる。

そのお店の名は「夜の花屋」。

外装の落ち着いた佇まい、暗がりのなかでポツンと光る外灯、店内からこぼれるうっすらとした明かりに心惹かれ扉を開けたくなってしまう。店内には生花からドライフラワーまでさまざまな花が飾られている。その一つひとつが適度な距離感を保ち、全体に調和を生み出している。初めて訪れたとしてもその居心地の良さから緊張が解きほぐれて、展示された花の一つひとつをじっくりと眺めることができる。それぞれの花には店主のつくった説明文が添えられ、見たり嗅いだりするだけでは感じられない花の魅力を知ることができる。まるでここはアートギャラリーのようだ。

「お客さんには少しでも心を落ち着かせてゆっくりしてほしいと思っています。静かにリフレッシュする空間ってあまりないと思うんですよ。僕も過剰に接客はしたくないですしね」

そう話すのはオーナーの濱川大幸(ひろゆき)さん。

濱川さんはこれまでフォトグラファーや書店員を経て、店のない花屋「Apricot Tears」として活動してきた。ドライフラワーのネット販売や催事での装花、ギャラリーでの個展を行うなどその活動の幅は広い。

もともとは人と違った方法で勝負するためにはじめた店のない花屋。いつか飽きがくるかと思いきや、花の魅力にどっぷりと浸かっていった。装花の技術が目に見えて向上し、ブライダルやイベントの場では直接感謝されることも多く、実店舗を持つのも悪くないと思っていた。そんなときにタイミングよく街中の古着屋が移転するとの話が出たことで店を持つことを決意。2019年9月に若草通商店街の中にある文化ストリートにて夜の花屋をオープンさせた。以来、“店のない花屋”と“夜の花屋”の2店舗から成るApricot Tearsを運営している。

花はただあるだけ美しい

現在は夜の花屋を宮崎市昭和町へ移しているが、お店の基本コンセプトは変わらない。

「夜にしか開かない花屋」と言えばロマンティックに聞こえるが、それ以上に実用的な意味もある。夜に開いていれば急にお花が必要になった場面に対応でき、仕事や買い物の帰りに寄ることも可能。花屋に行くことが目的にならずとも、一日の終わりにふらっと立ち寄ってリフレッシュすることができる。濱川さんは夜に花を買うことの意義についても説く。

「買った花をそのままリビングに飾ったとします。すると翌日の朝は花のある状態からスタートするんですよ。それって素敵だと思いませんか? そこに花があるだけで一日が変わるかもしれない。夜に買った花は次の日の朝につないでくれるんですよ」

店舗を構えて以来、さまざまな目的でお客さんが訪れているという。偶然通りかかった人、SNSで知った人、Apricot Tears時代からのファン、彼が文芸誌上で書いた小説に惹かれてやってきた人。濱川さんはお店の一番の自慢はお客さんであると話す。

「信じられないくらいどのお客さんもいい方ばかりで。嘘じゃないんですよ。リピーターとして何度も通ってくださる方たちもいて幸せだなって思いますね。通っていただけるって、お店を認めていただけているってことだから最大の賛辞ですよ。きっとお花を大事にしてくださる方なんだろうなって、信頼してお花を託すことができます」

ひっそりと構えた店舗に人が集まり、誰かにとってなくてはならない場所になる。夜の花屋をはじめて以来、一緒にイベントをやりたいと誘いを受けることも多くなった。

最後に、濱川さんは花の魅力をこう語っていた。

「花はただあるだけ美しい。たった一本でも綺麗で可愛い。これって美しいものをつくろうという意思があって出来上がったものではないんですよ。偶然にしてはできすぎだろうって思うけれど。花には敵いませんよ」

文:半田孝輔 写真:田部祐徳

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夜の花屋

宮崎市昭和町63-1 伊青ビル103号
TEL:090-7535-4895
営業時間:16:00 ~ 22:00
定休日:木曜、第2、4水曜
Instagram:@yoruno_hanaya
LINKhttps://www.instagram.com/yoruno_hanaya/?hl=ja

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