TOURISM

2022.02.15

ここだからやれること。フレンチの思想を故郷で表現したい(後編)

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前編では、宮崎県延岡市出身で「ふらんす食堂 Bistroマルハチ」オーナー兼シェフの八田淳さんの修行時代やオープン当初のお話を伺いました。後編ではさらに、現在取り組まれているジビエの販路開拓、6次産業について詳しくお伺いします。

流行の「SDGS」フレンチの世界では常識?

「最近SDGSという言葉が浸透してきていますが、フレンチの料理人ずっとそれを念頭に置いてやってきています。パリの二つ星の店で働いていたときも、フードロスや厨房で使う資材の無駄遣いなどにはすごく注意していた。野菜の皮もうっかり捨てたりすると、ゴミ箱ひっくり返されて、食材の廃棄なんてあり得ない! と怒られるんです。『いい店はゴミが少ないよ』ということは、当時からみんな口を揃えて言っていましたね」

メヒカリのアンチョビの商品化を進めているのも、フードロスが出ないようにアイディアを練った上でのこと。メヒカリを使った商品開発は次が第2段。メヒカリを塩蔵するときに出る水分の上澄みを使って、うまみの塊のようなソースを作られているのだそう。

「僕らが使わせていただいているのは延岡市北浦のメヒカリです。はじめ、漁師さんに浜値がキロ1円だと聞いた時は愕然としました。コロナ禍のせいかとも思ったのですが、そういうことでもなく。それを聞いて絶対にどうにかしなければいけないな、と。それまでに彼らも当然、商品化を試みていたのですが、販路の確保なども含めてかなり難しかったようでした」

もともと、九州の他県では精力的に取り組まれている6次産業やそのための販路の確保などの取り組みが、宮崎ではまだ不十分だと考ていた八田さん。生産者が自ら加工、販売までこなすには多くの課題がある。そこで八田さんは、宮崎の生産者と、全国のシェフとを繋いでいくことなら自分にできるはずだ、と、視察チームのアテンドや、宮崎県のジビエを使ったシェフ向けの講習会などに取り組み始めたのだそう。

課題は多い、やれることを粛々と

「西米良の本州鹿も、蝦夷鹿に比べて価格が3分の1以下なんですよ。西米良のジビエ加工処理施設はISOも取っていて、施設自体もとても綺麗。ハンターの腕もダントツによくて、一次処理がものすごく上手なんですよ。ブランドになっていなくても美味しいと言っているプロも日本中にいる。ハンターの地位向上に取り組まなければ、後継者問題も深刻化してしまう。しっかりブランド化していくことも、必要な過程なんですよね」

好きだから学び続けられた

また話題はフランスへ。日本ではジビエは、害獣駆除の一環のように取られることも多いようですが、フランスではどうなのでしょうか?

「フランスではそういう考え方はしません。美味しく食べる方法を知っているから食べているだけという感じ。向こうの人たちは狩猟民族なので、とったものを美味しく食べる方法も、一番美味しいタイミングも熟知しているんです。ジビエは高タンパク低カロリーで健康面にも良いですし、最近はサシの入ったマーブルのお肉より、赤身の肉を使うようになっているようです。そういう意識の高さとは、向こうで学べてよかったなと思うことの一つですね」

日本とはまた違った文化を持つフランスですが、レストランが一番忙しいのはバレンタインの時期。ディナータイムを3回転したあと、カップルたちが朝方までお酒やダンスを楽しんで…という毎日が続くと「お風呂に入る時間もなく、みんな臭くて…自分が情けなくて涙が出てくるくらい」つらい日々だったと振り返ります。しかしグランシェフはそんなの当たり前といった様子で、店を閉めた後2時間くらい仮眠して、朝また市場に行って…休みの日には友達呼んで自宅でホームパーティーを開くという、タフな方ばかりだったと、当時のエピソードを話してくれました。

「日本人は勤勉だなんてよく言いますが、彼らはもうそんな次元じゃないですよね」と笑う八田さん。そんな最前線の様子を見続けて、なぜ心が折れなかったのでしょう?聞いてみると、飾らない言葉が返ってきました。

「好きだったんでしょうね。何があっても、料理を嫌いにはなることはなかったです。運動するのが今でも趣味なのですが、そういう時頭がクリアになって、また新しいメニューが浮かぶんです。それが僕の一番のリラックス方法。というか、ずっと料理のことばかり考えていて…結局、料理人が天職なのかもしれないですね。」

文:倉本亜里沙 写真:田部祐徳

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ふらんす食堂Bistroマルハチ

〒880-0805 宮崎県宮崎市橘通東 2丁目9-14トライスター本町通りビル1F
営業時間:18:00~21:30
定休日:不定休
(詳しくはFacebookまたはInstagramをご確認ください。)
LINKhttps://bistromaruhachi.stores.jp/

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