CULTURE

2022.08.25

情緒を届ける手仕事。日常に潜むユーモアとペーソスを

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まるで落語の演目を見ているかのような、そんな絵画を扱うご夫婦に出会った。日常に潜む滑稽さや哀愁。古今東西変わらず、昔から人の生活のなかにはそんな要素があり、私たちもふとしたことでお腹を抱えて笑っていたりする。そんな絵画が自分の目の前に飾ってあったとしたら、日々の暮らしは明るいものになっているだろう。

カテゴライズされないもの、微妙なライン上にあるものが好き

小田島工房をご存じだろうか。宮崎市を拠点に、絵画作品、それらをもとにした版画や凧、ZINEを制作している。宮崎県出身の小田島洋平さんと神奈川県出身の真弓さんの夫婦によるユニットだ。

絵を描くのは洋平さん。真弓さんは工房の代表として営業や販促活動を行っている。2人は2018年の夏、当時住んでいた東京を離れ宮崎へやってきた。今では娘と一緒に3人で暮らしている。2021年12月には洋平さんの初の個展「色と形の土俵際 小田島洋平展」を開催した。

洋平さんの描く絵はどこかユーモアで、昭和レトロのような懐かしさがある。伝統的な日本画の雰囲気も漂っていながら現代的な要素も感じる。どこにも当てはまらず、見る人によって印象が変わりそうな、そんな奥深さがある。

(洋平さん)「カテゴライズされないもの、微妙なライン上にあるものが好きかもしれない。だけど、自らベタなことをするのは楽しい」

洋平さんは自分の性格を話すときにそんなことを口にしていた。

洋平さんは20歳のとき「男子たるもの、生きていくうえで熱くなれることがしたい」と絵を描きはじめた。腕試しに応募したコンテストでは見事入選するも、生業(なりわい)にするために自己流ではない技法を身につけたいと上京を決意。多数のクリエイターを輩出しているセツ・モードセミナーで3年間絵を学んだ。

真弓さんは今でこそ描き手を支援する仕事をしているが、もともとはイラストレーター志望だった。絵を描くことが好きだったこともあり、イラストレーターの学校へ通うも同級生と異なり情熱を注げず楽しめなかったという。ただ、通うなかで気づいたこともあった。それは、ほかの生徒に比べ描かれた絵を「伝える」ことには長けていたということ。

描きたい人をバックアップする「エージェント」の仕事なら生き生きできるかもしれない。そんなことを思っていたところ大津絵や肉筆浮世絵を扱う画廊に誘われ、勤めることとなった。

洋平さんはセツ・モードセミナーを卒業後は絵の道に進むでもなく、「雰囲気に惚れた」浅草に住み、珈琲屋で働くようになる。結果的に、ここが真弓さんとの出会いの場となった。

庶民的な絵に宿る美

画廊でお客様に淹れる珈琲。その豆を買いに行く先が洋平さんの勤めているお店だった。頻繁に通ううちに真弓さんの好きな落語、とくに立川談志の話題をきっかけによく話すようになったという。

(真弓さん)「お互い話が長いんですよ。閉店後に外で朝まで喋っていたこともあります。2人とも基本的に好みが似ているんだけど、その好きな理由が違う。そこがおもしろくて」

大きな衝突がないという2人は結婚も早かった。お互いに当時の仕事に不満はなかったが将来の子どものためにもと、洋平さんの故郷である宮崎へ移り住むことにした。移住から間もなく子どもが産まれ、子育て中心の生活になったことをきっかけに小田島工房を起業した。

小田島工房では江戸初期から明治にかけて制作されていた大津絵のような絵画づくりを目指している。大津絵は一点ものではない大量生産された絵画。「鬼の念仏」と呼ばれる代表的な絵は、壁に貼ると子どもの夜泣きが治るともいわれ、庶民のあいだではお札のようにも使われていた。素朴で生き生きとした線が魅力的で、お土産品としても愛好されていた。

(洋平さん)「絵を飾ることの楽しさを広めたいですね。ふと眺めたときにユーモアを感じたり」

(真弓さん)「生活のなかにある普遍的なことをやっていきたいなって思いがあります。大津絵は線を描く人、色を塗る人といった職人たちが分担して大量生産していた。名もなき職人たちの行っていた手仕事の文化を自宅でできる範囲でやりたいんです」

宮崎に来て4年。知り合いがいないところからのスタートだったが、徐々に協力者も増えてきた。道半ばではあるが満足度の高い生活はできているという。

2人と落語の話題になったとき、真弓さんは落語の好きな理由に「ダメな人間がよく出てくるし喧嘩もあるけれど、仲間はずれがなく居心地がいいこと」と話していた。小田島工房の2人は今、そんな人情味ある生活を紡いでいる最中なのかもしれない。

文:半田孝輔 写真:田部祐徳 撮影協力:吐夢乃家珈琲店

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小田島工房

絵を中心に2020年から活動。夫は絵画や版画など、妻はディレクションや文字デザインなどを担当。
手から作り出すことを大切にしている。飾って楽しい図案を日夜研究中。毎年秋にZINE『かげひなた』を制作。イラスト受注や個展も行っている。
【今後の予定】版画展:2022/11/19(土)~12/4(日)吐夢乃家珈琲店
Instagram:@odajiimakobo

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