CULTURE

2022.07.15

告白をするように言葉を紡ぎ、歌を歌う

メイン画像

「簡単に『好きです』だと上手く伝わらない。もっといろんな方面で『一緒にいたい』って言葉があるはず。告白と表現って似ていますよね」

そう話すのはシンガーソングライターのカワサキイタロ。宮崎を拠点に活動する22歳。自主レーベル「レトロンレコーズ」を主宰し、楽曲制作のほとんどを自分で行っている。歌うときの節回し、独特の感性から紡ぎ出された歌詞が魅力的。そんな彼の人物像に迫った。

音楽がありがたいのは言葉を表現できること

今回、取材場所を設定するに当たって「馴染み深い場所を教えてください」と事前に質問していた。指定された場所は宮崎市の街中にある別府街区公園。ある暑い夏の夕方、向かった先には夕日を背にした彼がいた。なぜ、この場所を選んだのか聞いてみると「僕にとって公園は生活の一部なんです」と返ってきた。

「公園、好きなんです。夜遅くまで遊んで始発電車が動くまでここで朝を待ったり。朝、仕事に行く前に必ず公園に来て心を落ち着かせたり。あ、仕事終わりにもよく来ますね。公園って吸い込まれません? いろんな人がいて、いろんなことをしてて。よく人を眺めながら考えを整理してます」

彼にとって、目にしたものを自分の言葉で整理する時間は何よりも重要だという。そこから歌詞が書き出され、歌が一つ生み出される。

今でこそライブをし、曲をリリースするなどミュージシャンとして活躍するが、もともとは芸大志望で画家になりたかったという。彼が音楽を志すきっかけは高校時代のこと。あることを発端に日々がしんどくなり、絵も描けなくなった。授業以外はイヤホンをして音楽を聴くことで外界を遮断。日常的に考え込むことが多くなった。

しかし、音楽を聴くうちにだんだんと自分もやってみたいと思うようになる。もっとも、彼が音楽に惹かれた理由は「言葉」にあった。

「詩が好きなんです。穂村弘さんの作品を読み漁った時期もありました。音楽がありがたいのは絵と異なって、詩や言葉を表現できること。歌として声に出すとしっくりくるし、自分でもやりやすいと思って」

「実は音楽好きな人と話ができない」と笑うように、読書好きな彼にとって、つくり手として影響を受けたのはミュージシャンではなく詩人や作家。なかでも小説家である西尾維新の世界観、作中で韻を踏むという手法には強く影響されている。

自分の気持ちを歌いたいと、当初から自作の歌をつくっている。高校卒業後の18歳、ライブハウスのステージに立つことで、彼は「カワサキイタロ」としてミュージシャン活動を本格化させていく。

生活は崩さず、でも純度は高めていく

音楽活動をはじめて早4年。あるときはバンドとして、あるときはソロとして音源を出しつつ県内外でのライブを精力的に行う。今、その瞬間に感じたことを大事に包んだような歌詞、等身大ともいうべき自分の気持ちを真っ直ぐに歌った歌に、心をグッとつかまれる人も多いだろう。

「東京でライブをしたときに『東京じゃ絶対に育たない感性だから大事にしてね』と言われたのがすごく嬉しかった。東京から見たいち田舎としてではなく宮崎として見てもらえたようで」

県内外でライブ活動を続けるうちに気づいたのは、宮崎の音楽シーンの雰囲気。彼が言うには、宮崎のミュージシャンたちはお互いをリスペクトする傾向にあるという。

「優しさがあるというか、いい部分をよく口で伝えていますよね。県外のバンドはバシバシ指摘をして、お互いに強くなっていこうとしている気がします。かといって、宮崎は大人しいかというとそうでもない。色が濃くて熱い人たちもいる。宮崎はいい具合にのびのび活動できる場所なのかも」

そんな環境下で、最近では宮崎県の20代クリエイターチームを中心に制作が行われ、6月に公開された映画『月と。』において、主題歌「アポロ」の提供、主要人物として俳優にも挑戦している。いずれも脚本を書いた伊達忍監督からの指名だ。

「『アポロ』は僕なりの伊達監督へのアンサーでもあるんです。芸術や表現で生きていく葛藤が映画では描かれていますが、表現する人としての伊達監督の気持ちが入っている部分を感じ取りました。日常生活と芸術の共通する部分を探るように言葉を絞り出して、歌い手としての表現の仕方を示したというか」

活動の幅が広がるカワサキイタロ。これまでは自身の内に溜まったものを晴らすかのように体力が尽きるほど活動を行ってきたが、今は生活第一でいたいと話す。

「コロナ禍で考えることが増えました。一つ一ついいものをつくっていきたいなって。そのためには安定した心が必要で、そこから表現されるものってすごくいいなって思います。ゆっくりとやることって別にネガティブなことではない。生活は崩さず、でも純度は高めていく。長く聴いてもらえる曲をつくっていきたいですね」

文:半田孝輔 写真:田部祐徳

DATE

カワサキイタロ

県内外問わず楽曲提供やライブ出演など幅広く活動する、宮崎市を拠点に活動するアーティスト。繊細で柔らかい声と日々を丁寧に真っ直ぐ表現した歌詞が魅力。 2022年6月には新曲「アポロ」を各サブスクリプションサービスにて配信中。

Instagram:@kwskitaro0
Twitter:@kwskitaro0

LINKhttps://www.tunecore.co.jp/artists/kawasaki-itaro

写真