この瞬間に立ち会えたことほど、幸運なことはないように思う。
宮崎を拠点に活動するバンドVERANPARADE(ベランパレード)が結成8年目にして初のCDフルアルバム『VERANPARADE』を発表した。前2作のミニアルバムに続き通算3枚目。コロナ時代に突入し、大打撃を受けた音楽業界。ライブバンドとして前線で活躍していた彼らも、活動制限やメンバーの脱退・加入など大きな変化があった。
VERANPARADEを生き延びさせたい
「ライブができなくてもVERANPARADEを殺したくない、生き延びさせたいと思ったんです」(あび)
VERANPARADEは歌王子あび(Vo,Gt)、ゆりえちゃん(Ba)、ヤスヨシ(Gt)で構成された3人組ロックバンドだ。2013年に結成され、宮崎の若手バンドを代表する存在として地元のバンドシーンを牽引している。結成からほどなく東京の事務所に所属し、2016年にはバンドとして初の全国流通アルバム『omoide fight club』を発表した。
ライブバンドとして精力的に活動を続けていたが、2020年にはじまる新型コロナの影響を直に受けることとなった。コロナ前は月に多くて10本のライブを行い、週2回スタジオ練をし、毎週飛行機に乗る生活をしていたという。しかし、音楽に関わるすべての活動がストップしてしまった。コロナ初期より自分たちにとってのバンドとは何か?と問い続けるうち、今できることで音楽を届けたいという思いからCDフルアルバムの制作に踏み切ったという。そして、所属していた事務所を離れ、自主レーベル「エースランドレコーズ」を設立。制作や宣伝、販売まで自分たちの手によって行うことにした。
「10曲以上収録されたフルアルバムを出すのは、バンドとしてのロマンであり悲願でもありました。それをサブスクリプションではなくCDの形で出したのは、自分たちの近くにいる人たちと一緒につくり、外へ発信させていく基盤を整えることがコロナを乗り越える方法だと感じたためです。自分たちで楽曲を届けられることを周りの人、とくに宮崎の後輩たちにも示したかった」(あび)
その言葉の通り、楽曲制作からアルバムのアートワークまで一貫して宮崎で行っている。ジャケットのデザインを担当したのは、あびの実弟である坂元ぽん太。ジャケットにはメンバーや同じ街のバンド仲間を模した人形が使われている。自社サイトでの販売のほか、メンバーの手売り、街中のショップに置かせてもらうなど、手探りであらゆる販売方法をとっている。一見すると泥臭いやり方だが、販売に関与していなかった昔と違い反響がダイレクトにわかるという。
「予約販売の時点で思ったよりもみんな買ってくれていたんです。それが本当に嬉しくて」(ゆりえちゃん)
あびは曲づくりの時間が増えたことにより、改めて音楽のおもしろさに気づいたという。「音楽のことを全然わかっていなかったんだな」と話すその顔は、子どものような屈託のない表情だった。
音楽くらいは自分の好きな場所でやらせてほしい
制作のエピソードを反映するように、アルバム『VERANPARADE』は宮崎の街や周りにいる人々に対するリスペクトで溢れている。収録曲の「FRIENDS」では身近な存在が歌われ、またミュージックビデオは地元のバンドマンなら思わずうなずき、それ以外の人々にとっては新鮮に感じる街の風景が収められている。
これまでとは異なるVERANPARADEの姿が見える楽曲たち。メンバーチェンジやコロナ禍など内外の状況の変化を経ても変わらないVERANPARADEらしさとはどこにあるのだろう。
「あびの歌詞の力は強いですよ。自分が加入しても、曲の雰囲気が変わっても、VERANPARADEらしさが出る」(ヤスヨシ)
「僕はギターの練習よりも『書く』という行為に力を入れてきた。歌詞を書くことは僕にとって憂鬱な気分や拭いきれないネガティブな考えに対抗するための武器なんです。それは一貫して変わらないところで。歌詞はVERANPARADEの軸で、ボーカルとして自分がいるのがVERANPARADEだなって」(あび)
結成から活動拠点を宮崎に置いているが、東京など大都市圏へ移ることは考えなかったのだろうか。
「行きたいなと思ったことはもちろんあります。でも、今は自分たちで発信する方法があるし、ライブしには行くけれど東京とかに住む必要はないなって」(ゆりえちゃん)
「音楽くらいは自分の好きな場所でやらせてほしいなって思います。自分がただただ宮崎好きだってのもありますが」(ヤスヨシ)
10年後もその先も、バンドという概念自体を柔軟に捉えて、いつまでもVERANPARADEをやっていきたいと話していたあび。その原点はやはりライブであり、自他のバンドを問わず観ること、演奏することの楽しさは格別だと語る。
「ステージに上がる前にサウンドエフェクトがかかる瞬間のゾワゾワ感は何度やっても色あせない。ライブ中なんて自分が見えない力に動かされているような感覚なんですよ! これがロックか! って」(あび)
実はこのインタビューをしたのはアルバム発売日。この時間、収録曲「空中翼船」のミュージックビデオのプレミア公開を控えていた。「データちょうだい!」「はいよ!」「時間になった!アップします!」テンポ良くチームワークを発揮するその様は、ステージ以外でも同じだった。
「メンバーは『メンバー』というより『友だち』」(ゆりえちゃん)
目の前で繰り広げられる光景はまさにその言葉のようだった。バンド名を冠したアルバムを引っ提げて、新たなVERANPARADEの躍進がはじまる。
文:半田孝輔 構成:田部祐徳 写真提供:坂元ぽん太
VERANPARADE 1stフルアルバム『VERANPARADE』
収録曲:01.ichi/02.空中翼船/03.ラインマーカーズ/04.FRIENDS/05.girls by poolside/06.たまにいたい/07.記念日/08.memories/09.BASE BALL/10.幽霊です/11.love you tender/12.いち
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DATE
VERANPARADE
2013年、夏。宮崎在住の3人が組んだロックバンド。ハッピーなのにどこか胸がギュッとなるメロディ。誰の何も分からなくなる位に、目一杯で表情豊かに歌われる言葉たち。あの日のベランダから見た景色は僕たちをどこへ連れて行ってくれるんだろう。『本当のことも嘘もごちゃまぜでそれでも笑う君と。僕は恋をしていた。』
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